はじめに
椿をきっかけにして、照葉樹のことについて二回にわたって述べてきました。今回も、冬でも紅葉して落葉することない照葉樹、常緑広葉樹について考えてみたく思います。ハラの森管理人である筆者が、ここハラの森にある名前を知らない樹木を同定することを通じて、読者の方々とともに樹木の観方を深める機会になればと考えます。
同定するとは
「樹木を同定する」とは、ある木を他の木と見分ける、〇〇の木であると見定める、と言った表現で言い換え可能です。ではでは、さっそく同定に取り掛かりましょう。
上に掲載した写真にある木が、同定の対象です。全体の木の様相はこんな感じです。
同定にあたっての前提
案外、事物や現象、出来事を見て、認識し考察することは難しいものです。世間で頻繁に言われることに、「よく見ろ!」っていう表現があるように思いますが、ある特定の分野に従事していない世間一般の素人にとっては、正直なところ、頭の中では、???・・・という状態になりゃしないでしょうか。「具体的に、その対象のどの箇所を、どう見ればいいの?」という気分に襲われてしまします。
今回の樹木の同定に関しては、正直先に言ってしまいますと、断定的なことは言えませんが、筆者がどのようにして樹木を同定しているのか、識別する過程を通じて、着眼点をお伝えできれば、と思います。
現代は便利でありまして、スマホにかざせば、植物の名前を教えてくれるアプリもありますが、前現代的である図鑑で調べる方法に則って、加えて博物館のホームページにはアプリがあり、市民の教養育成を助けてくれたりしています。こうした制度を活用することで、自分たちの周囲の自然環境への理解を深めることができます。
なぜ面倒くさい方法を選ぶのかと言いますと、スマホやPCから断片的に名称だけを教わっても、「だから何?」って話で、機械はデータ蓄積し他の情報と連結して賢くなるかもしれませんが、人間が賢くならなければ意味がありません。筆者が思うに、人間は一足飛びに賢くなりません。直感そして直観も、自らの感覚を鍛え、知識を得て理解を深めることなくして、事物、現象に対しての認識力は深まらない。そしてそれらに対しての理解を深めた先にしか、文明の利器である IT を自在に活用する意味を見い出すことはできないということです。
着眼点はどこなのか?
ハラの森に在る木を紹介する際、お助け願った林先生の著書では、以下の点から、樹木名を決定する過程を取っています*1。
- 広葉樹/針葉樹
- 広葉樹の場合:‐葉の形状:不分裂葉/分裂葉/掌状複葉/羽状複葉
- 互生/対生
- 鋸歯縁/全縁 ー葉の縁が鋸歯状(ノコギリ状)であるか、あるいは曲線状であるか
- 落葉樹/常緑樹
*1 林将之、『葉で見分ける樹木 増補改訂版』、2010年、小学館
で、葉は以下のようで、上記1)〜5)に従っていくと、1)広葉樹、2)不分裂葉、3)互生、4)全縁、5)落葉樹ということは、簡単に見分けられました。しかし、写真を見てもどの木であるのか判別がつきません。マテバシイ、それともツブラジイ?… 。
ということで、博物館のサイトの助けを借りました、千葉の県立博物館・デジタルミュージアムです*2。ここに「樹木検索図鑑 Ver. 1.0」がありまして教えを願ったわけです*3。
*2 千葉の県立博物館・デジタルミュージアム
*3 樹木検索図鑑 Ver. 1.0
このサイトでは、以下の事項に答える中で、樹木の候補を絞り込んでいきます。筆者が要約してまとめてありますので、詳細を知りたい方は上記のサイトを訪れて見てください。
- 木を見た場所:… 北関東/南関東/中部/東海 … ⇒南関東
- 植栽/自生 ⇒植栽
- 樹形:主幹がある/小高木/株立ち(叢生)⇒小高木/株立ち
- <常緑/落葉 ⇒落葉
- 単葉/複葉:単葉/奇数羽状複葉/偶数羽状複葉… ⇒単葉
- 葉のつき方:互生/対生 ・・・ ⇒互生
- 葉の大きさ:特大/大/中/小 … ⇒大(手のひら大)
- 葉のかたち:卵型・楕円形/丸形/ハート形… 卵型・楕円形
- 葉のふち:全縁/鋸歯 ⇒全縁
- 葉脈:羽状脈/三行脈・掌状脈/平行脈… ⇒羽状脈
- 側脈
- 樹皮の滑らかさ:なめらか、ざらざら、がさがさ程度/でこぼこ、ごつごつ、その他…
- 表面の裂け目など:皮目・裂け目が目立たない/皮目・裂け目が縦に入る/皮目・裂け目が横に入る/皮目・裂け目が点々とある/まだら模様がある ⇒なめ らか、…
- 樹皮のはがれやすさ:樹皮が剥がれる ⇒皮目・裂け目が縦に入る
- トゲの有無:トゲがある ⇒トゲはない
- 花の色
- 花の形
- 花期
- 果実の色
- 果実の形
- 果期
ということで、⇒は、筆者が項目チェックしたことです。で、現時点で措定したのが、シキミ [ 樒 ] です。初めて聞く名称でした。措定の段階でありますが、決め手としたのは、検索図鑑に掲載されていた、幹の写真がハラの森のものと似ていたからです。
同定するには何が必要か?
当検索図鑑によると、この「シキミ」という名称は、「悪しき実」から由来するとなっていて、寺社や墓地に植栽される、とのことです。林先生の著書では、墓地に植えられる理由が、害獣が厭がる匂いを発することで死体を安置させる目的、つまり害獣よけのため、もう一方で死臭を消す効能を狙ったのではないか、とあります*4。葉をちぎると強い香りがあるとも述べられています。しかし、ハラの森のその葉には、折り曲げてみても独特な強い匂いがありません。老木であるので匂いを発しないのか判りませんが、識別するのに躊躇してしまいます。
*4 林将之、前掲書 p.114
ここで、同定にするには、3〜4月の薄黄色の花を咲かせる時期に花の姿の確認作業が必要となります。そしてその後に果実を付けますが、その果実が中華料理で使う香辛料の八角に似た形状をしている点を確認できたら、シキミと同定できるでしょうか。ちなみに、Wikipedia によりますと、このシキミの果実は有毒で致死の可能性をもあるほどです。葉や茎も含め全体に毒性があります。間違っても調味料として使ったりしてはいけません。要注意です。
さいごに
ということで、今回は、はっきりとシキミについて紹介する、という形にはできませんでしたが、今回で書いたこと、樹木を識別する際には、まず基本的に下記の5点を見定める。
1)広葉樹/針葉樹
2)広葉樹の場合:‐葉の形状:不分裂葉/分裂葉/掌状複葉/羽状複葉
3)互生/対生
4)鋸歯縁/全縁 ー葉の縁がノコギリ状であるか、あるいは曲線状であるか
5)落葉樹/常緑樹
上記に加えて、『樹木図鑑Ver.1.0』にあったチェック事項、樹皮の表面の状態や、花をつける時期、花の形状、果実の色、形状などを調べる。これらの事項が、つまり、より確からしい樹木を同定するための着眼点であり要素なのです。
場当たり的でも、判別できる樹木もあるでしょうが、四季を通じて樹木を観察していないと見極めが難しい場合があることを認識しました。何十年と見てきた木であるのに、花や果実がどんなであるのか、記憶に全くないことを反省しています。
読者の方々、周囲ある気になる木を、以上のような着眼点を以て、樹木名を探り当ててください。木に親しみが湧きます。ということで、今回はこれぐらいで。ごきげんよう。
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