20240126 トゲのあるヒイラギの葉

樹木のこと

はじめに

冒頭に掲載してある写真に、「あっ、柊だ」、と思った方もおられると思います。特徴ある葉でありますしね。今回は柊について考えてみます。

柊(ヒイラギ)という字

以前、「冬に咲く椿」で触れましたが、椿は春を告げる木:木+春と紹介しましたが、今回のこの柊(ヒイラギ)は、木+冬でありますので、冬の到来を告げる木、という意味がこめられているのでしょうか。白い花が10〜12月に咲くというので、気象学や気候学の季節区分からすれば、12〜2月の冬の季節の前段に咲く。柊の花によって冬がやって来るのを感知していたのかもしれません。

節分で柊(ヒイラギ)をイワシと一緒にして玄関に飾る

節分の2月3日に、柊の小枝と焼いたイワシの頭を、棒で繋くくりつけて飾り物にして、玄関先や門扉に掲げるという風習があるそうです。Wikipedia によると、「柊鰯(ひいらぎいわし)」とか「やいかがし」と呼ぶのだとか。子どもの時分から聞いたことはありましたが、ハラの森管理人である筆者は柊鰯を実際に見たことはありません。東京を中心とする首都圏の衛星都市郡では、この伝統的行事が元来根づいていなかったのか、存在していたけども都市化の波で潰えたのかは判りません。ハラの森の近隣ではこの慣習は採用されていません。最近では、節分の豆撒きの声も聞こえないぐらいですから。

柊鰯について、魚を焼いた臭いと柊のトゲトゲの葉で鬼を近づけないためだ、というのがよく聞く定説ですが、節分の日に、春の到来を喜ぶことを表しているとも言えなくもありません。これもWikipedia の解説からの推測ですが、伊勢神宮で正月に販売される注連縄(しめなわ)に柊が取り付けられているということもありますし、節分の日に食したイワシの一部である頭部ー古来日本では貴重かつ身近であったであろう動物性たんぱく質ーを、冬が去って春が到来することを祝う意味から、供え物的に飾ったという新年のお飾り的な意味があったとも解釈できないでしょうか。

ヒイラギの植物学的な詳細*1

  • ヒイラギ [ 柊、 疼木 ]
  • モクセイ科モクセイ属の小高木
  • 樹高:2 〜 6m
  • 分布:関東地方〜九州 ; 身近な低山の林内に点在
  • 植栽:庭木、生垣、公園樹 

*1林将之、『葉で見分ける樹木 増補改訂版』、2010年、小学館

ヒイラギの葉は、全縁から鋸歯に変化する

下に掲載した写真は、ヒイラギのギザギザ状のトゲとなった鋸歯状を呈しています。葉先の尖った部分を別にして、葉の左右は、対になってトゲ状となってギザギザとなって3〜5対の尖り部があり、かなり鋭いので触れると針でチクリと刺されるような感覚があります。

トゲ状の鋸歯となっているのは、小高木ですから、草食動物が食べやすい高さに葉が繁っていることで、自己防衛のために葉を尖らせたことを想像させます。葉を食べようとする動物は、葉を口にいれると、トゲで口内が傷つき不快となり食用の対象から外すことになるのではないでしょうか。小さな葉については全縁となっているものも見られます。そして、その全縁が、葉先の方からトゲを着けていきます。

全縁状から鋸歯状への変化過程。葉先の方からトゲの対ができていく

しかし、全縁の葉は、老木、そして花のつく枝に多く見られるそうです*2。葉を食べられるようにすることで、花に触れてもらい、授粉の手伝いをさせる仕組みを整えているのかもしれません。「花の季節以外は葉は食べられては困るが、花の季節は授粉を手伝ってくれたら、その分の葉は食べてもいいよ」ということです。もしこれが事実だとしたら、こすっからいと思われますか?

*2 林、 前掲書

椿の記事で述べた、鳥(ヒヨドリやメジロ)との関係と同様です。鳥は椿の蜜だけが欲しい。花粉が嘴にくっつくのは煩わしい。しかし、椿は鳥の嘴に花粉を運んでもらわないと種をつくれない。ということで、鳥たちが花粉を嘴にくっつかないようにしては蜜を採れない花の構造を作り上げた。このようにして、生物間はコミュニケーションを取り合っている、交渉して自らの種の利害を主張しつつ生き抜いているということです。生命って、率直でありかつ様々相手との交渉上手、すごいことです!

ヒイラギの用途

ヒイラギの幹は触った感じ、硬い木という感じがしました。

確かに、素材的に緻密な組織構造で強靭さの特徴もあるとのことです。ということで、小高木ですから、建築資材とはなり得ない側面はありますが、櫛やそろばん玉、印鑑や将棋の駒の素材となっているそうです。薪炭材にも好適ということで、歴史的にも日本人の生活に身近な存在であったことが理解できます*3。

*3「ヒイラギ」:「平井信二先生の樹木、木材研究」<「平井先生の樹木研究TOP」<「8.樹木」<「木の情報発信基地Top」

ヒイラギの分布、名称と民俗-樹木と木材 |平井信二先生の樹木研究|8-樹木|木の情報発信基地

また、低山の林内に生活するということであるので、故事に倣って北東側の生け垣として植栽するのはどうでしょうか。正に鬼門の守り神的存在になります。故事に倣わずとも、生け垣の要所となる場所に活用するのはよさそうです。人間が樹木に利する働きは、植栽として利用するためというのもありでしょう。それによって、樹木の分布拡大に寄与することになりますから。

さいごに

節分で家の玄関先に飾られることや、注連縄に取り付けられてたり、日本人の生活に馴染み深い存在であったヒイラギ。櫛や印鑑の素材にもなっている。筆者は、ヒイラギがトゲトゲしているので疎ましく思っていましたが、トゲトゲしているからこそ、邪鬼を追い払ってくれるお守り的な役割を託すという、昔の日本人の視点に感心します。ということで、今回はこれぐらいで、ごきげんよう。

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