20240405 生垣(いけがき)について考える

樹木のこと

はじめに

家屋のある敷地の周囲を、塀で囲うのではなく、公共の空間である道路とを隔てる機能を果たしている「生垣(いけがき)」について、思うことを書いてみようと思います。

まずは木の紹介から

4月の6日、7日あたりが首都圏近郊の桜、特にソメイヨシノが満開な時ではないでしょうか? 花が散ってから桜の葉の新緑が淡い感じが素敵な時候を迎えますね。

ハラの森の生垣を構成する一つに掲載した写真の樹木があります。春を迎えて、桜の木同様に、きれいな緑を見せています。この木を同定してみましょう。以前からお世話になっている林先生の著書に従って着眼点を確認していきます*1。

*1 林将之『葉で見分ける樹木 増補改訂版』、2010年、小学館

◯樹木を同定する要点

  1. 広葉樹か針葉樹 ⇒ 広葉樹
  2. 葉の形:不分裂葉 or 分裂葉 ⇒ 不分裂葉
  3. 葉のつき方:互生 or 対生 ⇒ 対生
  4. 葉の縁:鋸歯縁(ギザギザ状)or 全縁(曲線状) ⇒ 鋸歯縁
  5. 落葉樹か常緑樹 ⇒ 常緑樹

◯補足1.鋸歯縁 or 全縁(曲線状)

縁がギザギザ状になっている例⇒鋸歯状;写真は椿の葉


以前取り上げたキシミの葉。縁がなめらかな曲線状である例⇒全縁(曲線状)

◯補足2.葉のつき方:互生 or 対生

以上から、林先生の本の頁を繰って同定したのが、樹木名:「マサキ」[正木、柾];学名:Euonymus Japonicus
ーJaponicus というラテン語の学名表記から察するに、「日本在来の」的な意味はありそうですね。ラテン語と学名の表記方法に詳しくないので確かなことは言えませんが。マサキの特徴は以下の通りです。

  • 部類:ニシキギ科ニシキギ属の低木。樹高は2〜4m。根元近くで枝分かれする
  • 特徴:萌芽力が強く大気汚染にも強く、昔から生垣に利用されてきた
  • 分布:北海道南部〜沖縄
  • 用途:生垣、庭木、公園樹、道路の植込

生垣の効用

生垣の効用を箇条書的に挙げてみます。

●癒やし効果
樹木が身近にあるということ自体、意識はせずとも安心感というか癒やし効果を与えてくれるように思います。樹木の緑を基調とした色調が目に優しくてよろしいです。

●防風林的機能
防風林の役割を果たしてくれます。季節の変わり目にある低気圧が発達する春一番の時候や、台風の際なども風の威力を緩衝する恩恵は計れないほどです。

●防砂林的機能
加えて、砂塵を防いでくれます。関東の首都圏にある地域は、冬によくある西高東低の気圧配置が続いて、風が強い日などあると、周囲の畑地などの乾燥しきった砂塵が吹きまくる時があり、家屋の中はザラつきますが、それをある程度和らげてくれます。

●プライベートな空間を創出してくれる
庭や家屋の様子が、道路から見ることができ、おしゃれな雰囲気を醸していて素敵であることもありますが、人から見られることに疲れることもありはしませんか?樹木が壁となって視界を遮ってくれることで、居住者側にとって自分たちの空間が保護されている感じに安心できます。

●公の空間と隙間的に接している空間演出が可能
生垣を厚く幅を持たせると、囲まれると閉鎖的環境を演出できますが、木々が一本ずつ並ぶような垣根であるなら、多少の隙間あり通りからもある程度は生垣の中を伺い知ることができます。背の高いブロック塀や板塀では隔離感が強くなります。閉じられた感覚と開放的な感覚の微妙さを演出できるのが生垣です。

●小鳥がくる
カラスほどの大型の鳥は、生垣の中に入ることはできそうもありませんが、小型のメジロやシジュウカラ、スズメのようなサイズの鳥たちが、生垣の中を自在に動く様子は見ていて楽しいです。ヒヨドリぐらいのサイズでも出入りしてます。餌場が同じであると、大型のヒヨドリがメジロを追い回したりしていますが、メジロは生垣の中の空間を利用して難を逃れています。

●落書きができない!?
ブロックやコンクリートの塀、そして板塀、あるいはシャッターなどへの落書きが社会的に問題となったことがありました。現在も問題となっているのかしら? 今も電車の沿線沿いから時折見える場所に見ることがあるので、問題であり続けているのかもしれません。樹木には落書きはできません。自然である樹木は樹木として存在するだけで美観や癒やしを与えてくれるのみならず、鳥や昆虫たちにも餌場を与え、休息あるいは避難の場をも与えてくれます。落書きの場として対象にならない。このようなことも生垣の効用の一つに挙げられるかもしれません。

生垣に適した樹木とは

生垣の効能に通りからの視界を遮ってくれる、と言いましたが、これは落葉樹であるとどうでしょう。落葉樹であると、冬には葉を落としてしまうので、庭や家屋の様子が顕になってしまいます。ということで、生垣の任に適しているのは常緑樹、更に言えば、冬であっても緑色を保ち、光沢のある葉をつける照葉樹でありましょう。

日本の照葉樹林の分布は、南は沖縄・南西諸島から、北は東北日本海側沿岸の山形、そして太平洋側では宮城県の南部にまで及びます*2。ここに含まれる地域は、照葉樹で生垣を作ることは可能ですが、これ以北の岩手や青森そして北海道では、生垣をどのような樹木を利用して作っているのか、興味深いところです。宿題ができました。現地調査が必要です。すぐには答えることはできませんが、北の大地を旅する時には、こうした視点を持ちつつ彼の地を踏査してみたく思います。今回はこれぐらいで、ごきげんよう。

*2 大場秀章『森を読む(自然景観の読み方 4 ) 』、1991年、岩波書店

コメント

タイトルとURLをコピーしました